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【interview】スペシャルニブ職人 屋敷尚紀さん

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工場見学を通して、もっともっとセーラー万年筆について知りたくなった取材クルーがペン先職人さんの素顔に迫るインタビュー企画。先日公開した「【interview】スペシャルニブ職人 藤川のぞみさん」の記事に引き続き、今回の記事ではセーラー万年筆広島工場で働くスペシャルニブ職人・屋敷尚紀さんをご紹介します。



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■スペシャルニブ職人 屋敷尚紀さん
実は取材クルーが屋敷さんにお会いするのは2度目。昨年の工場見学の際にもペン先づくりの作業場を拝見しました。あれから1年。環境や業務内容に変化があったという屋敷さんにオンライン上でお話をお聞きしました。

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※2022年8月取材時の写真

■では、早速ですがペン先を作る職人になろうと思ったきっかけについて教えてください。
もともと学生の時からセーラー万年筆の当時のペン先職人である長原の追っかけのようなことをしていて、「弟子入りしたい」というのを伝えていました。
ただその時はペン先職人の募集がなく...。その後職人の募集が出た際に長原から連絡をもらい、セーラー万年筆に入社しました。

■そうすると、いちファンから職人への道を踏み出されたんですね。
そうですね。当時は大学生だったんですけれど、「この道で食べていけたら面白いだろうな」という気持ちから入りました。

■お仕事の中でやりがいを感じる瞬間はどんな時ですか?
うーん......。
長刀研ぎの作業を一通り覚えたくらいのときは「あれもこれもできるようになった!」というのがあったんですけれど、最近は若手の教育と生産でいっぱいいっぱいで自分の技術の点では行き詰まってしまっている感じです。
ただ、ペン先職人を目指す新しい子が入ってきて、教えていく中で彼らが新しいことをできるようになっていくのは嬉しいですね。

■屋敷さんは今、ペン先生産の他に教育も担当されていらっしゃるんですね!
そうですね。どちらかと言えば今は教育がメインです。

■たしか、昨年広島工場に伺った際も屋敷さんのお隣で若い職人さんが作業されていましたよね

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※2022年8月取材時の写真

彼の他に今年2名ほど入ってきました。昨年一緒に作業していた彼は、長刀はそろそろ「研げます」といってもいいくらいにはなってきましたよ。

■教えるうえでも必要になってくると思うのですが、スペシャルニブを作るうえでのこだわりはありますか?
できるだけ多くの人にとって違和感がないことでしょうか。
ある特定の人にとって書きやすいというのも、製品としてあっていいと思うし、実現はできると思います。ただ、スペシャルニブはオーダーメイドで作っているわけではないので、誰の手に渡っても「書き味が全然違う」といった強烈な違和感がないように、幅広く多くの人に対応できるペン先を作るんだよ、ということは今教えている人たちにも伝えていますね。

■新人の職人さんたちは、自分の研いだペン先を実際に試筆して「違和感のない」書き心地に仕上がっているか、感覚で覚えていくのでしょうか?
そうですね。研ぐ技術も大事ですが、試筆の感性というか......どこが良いか悪いのかを自分でわかるようになることが必要です。

■良し悪しに気がつけるって、きっとたくさん試行を積み重ねて養われていく感性や能力なんですよね。
できたペン先をいろんな人に見てもらって「ここはどうだろう」と検討して、違和感に気が付いていくのが大事だと思いますね。気をつけていても、やっぱり癖みたいなものはあるので......。

■ペン先づくりについて教えているなかで、伝えるのに苦労することはありますか?
結局、寸法の基準とかではないので、ほとんどのことは伝わりにくいというか伝えようがないんです。数値とかではなくもう、物を見るしかない。僕でもよくわからないときがあります。
あとは、すでに目で見えているものを認識してもらうのが大変です。「ここに段差がある」とルーペには映っているけれど、自分が示している「ここ」に気づいてもらうためにどう導くかがすごく難しいですね。一度ここが原因で書きづらいんだと気づいてしまえば、それ以降はそこを見に行くようになるんですけど......。ルーペですごく大きく拡大して見せてみたり伝え方もいろいろ工夫していますが、気づいてもらうことの大変さは教える側になってはじめて知りました。

■お話を聞いていて『ウォーリーを探せ』を思い出しました。一度見つけたらそこにいるってわかるのに、見つけるまでは全然気が付けない。見つけたら今度はウォーリーしか見えないような......。
たしかに、それに近い感覚かもしれません(笑)。

■屋敷さんから見て、研ぎの職人に向いていると思うのはどんな人ですか?
ある程度目がいいことと、我慢強いけれどあんまりのんびりしすぎない人......?あとは似たような2つのものを見比べて違いに気がつける人ですかね。

■「のんびりしすぎない」というのはやはり生産数に関わる部分でしょうか?
そうですね。「いいものを作りなさい」というのは簡単なんですけど、メーカである以上生産数も大切なので。どういった優先順位で、精度を保ったまま数をこなしていくかが難しいところであり悩みどころですね。

■時間が限られた中で、いかに波なく作っていくかというバランス感覚といいますか...。コンスタントに製造ができる皆さまの集中力や熱量がすごいと思います。
正直、僕も気になったところをずっと引きずってしまう質なのでそんなに向いていないと思うんですよ(笑)。案外この仕事ではとことん完璧を突き詰めるような職人気質の方よりも、作業としてやるっていう視点を持っている人の方がストレスなく、いいものができるかもしれないですね。

■同じスペシャルニブを作る職人仲間として、藤川さんのここがすごいと思う所はどんなところでしょうか?
そうですね、藤川はコンスタントに数があがってきて、形状も安定しているんです。彼女がどうやっているのかわからないんですよね。それぐらい研ぐのが早いです。

■藤川さんはご自身は感覚派で、屋敷さんは理論派とおっしゃっていたのですが、屋敷さんはご自身でどう感じられていますか?
「ここをこの角度で、この幅になって」みたいに手順で攻めていくと、ちょっと手順が狂ったときに対応できないのが理論派の弱みですね。逆に感覚でやろうとすると、ふわっとしたところから狙ったところに持っていく技量がないと難しい気がします。

■最後の質問になりますが、今後について職人としての目標があれば教えてください。
昨年の工場見学の際にもお話ししたかもしれませんが、いつかオリジナルのペン先と軸全体を手掛けてみたいなと思っています。今はスペシャルニブが売れてきているので現実的ではないかもしれませんが......できたら面白いだろうなとは考えます。

■もしかしたら、新ペン先が登場する際に屋敷さんのお名前が見られるかもしれないということですね。ちなみに「ペンのイベントで販売に来ませんか」と言われたら屋敷さんは参加されたいですか?
参加したいですね。
長原がペンクリニックをやっていた時は、その場のフィードバックがあったからこそ、ペン先が進歩したというのが大いにあると思っています。実際に使っている人の声に触れる機会がある方がもっといいものができると思うので、一方的に製造するよりもそういったところで話を聞いてみるのは興味がありますね。

■おまけ 屋敷さんの愛用品

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お仕事用のノートとしてツバメノートを愛用されているという屋敷さん。ツバメのマークがノートページの「透かし」に使われていたころからずっと買われているそうで、今は廃番になってしまったツバメの「透かし」が復活したらいいなと思いながら使われているそうです。
ご趣味は写真と旅先での文房具屋さん巡り。旅先の文房具屋さんで作ったノートがもったいなくて使えないとのことで、物を大切にされている屋敷さんのエピソードにほっこりしました。