【インタビュー】創作ユニットboomi 森田MiW・YOSHiNOBU
左から 森田MiWさん、YOSHiNOBUさん
(インタビュー:2019年9月 銀座 伊東屋 HandShake Loungeにて)
■お二人にお聞きします。挿絵画家(イラストレーター)/造形作家を志したころのことを教えてください。
YOSHiNOBUさん
以前はDTPとWebのデザイナーをしていました。
デザイン事務所もいろいろあると思いますが、私の勤めていた職場はお客様の不満や要望を
デザイナーが直接聞くのではなく営業の方が矢面になって聞いてくれて、
デザイナーが傷つかないように守ってくれていました。
その反面、お客様とのやり取りがない分自分がやっている仕事が役に立っているかどうかも分からなくなり、
やりがいとか目標が持てなくなっている自分に気が付きました。
誰か代わりの人がいる仕事ではなくて、自分自身で考えて作ったものでお客様の反応をもらいたいと
思うようになっていったということもあり、それが制作を始めたきっかけです。
大学ではパソコンで作品づくりをする勉強をしていましたし、仕事もその流れで完全にデジタル漬けでした。
たしかにデジタルはとても便利ですが、手で触ることが出来ず、
デリートキーひとつで一瞬で消えてしまう儚い存在でもあります。
ある頃からそれを思うようになって、再び手を使っての作品づくりをするようになりました。
■YOSHiNOBUさんが初めにつくったものは
YOSHiNOBUさん
立体作品を作ろうと思ったときに、最初に手に取ったのは粘土でした。
造形していく中で、乾燥させたり複製したり、塗装するときに日中仕事をしていて限られた夜の時間で
制作を進めていくのには時間を作るのが難しく、また出来上がったものも友人にはあまり反応がもらえませんでした。
そんな中、羊毛フェルトがいろんな形に造形することができる素材だと知った私は、すぐ手芸屋で購入し、
手芸としての作り方ではなく粘土でつくる方法で羊毛フェルトの動物をつくったところ、
粘土には反応が薄かった友人たちがすごく反応してくれました。
また羊毛フェルトは染色されたいろんな色があるので塗装する必要もないし、自分のタイミングで作業を止めて、
時間が空いた後いつでもすぐその続きの制作を始めることができるのも自分の生活にあっていて魅力的でした。
温かな羊毛フェルトの質感をつかって最初に作った動物は「ゾウ」次は「シロクマ」でした。
まるで子供が大きなお父さんに話をきいてもらうように、
大きな存在の動物を作って身の回りにおいてもらおうと思いました。
カフェで初めて個展を開いたときには、私の作品目当てではないお客様ばかりの中で「きゃー!なにこれ!!」と
何度も悲鳴があがるくらい反応をいただけて、その中でどんどん作家として活動を続けていきたいと思うようになりました。
YOSHiNOBUさん作「テン」
森田MiWさん
私は大学の工芸学科で陶芸を専攻していました。立体でした。
陶芸の卒業制作の時期に、ビスクドール(※磁器土で成形し焼かれた人形)のような作品を作り、これを続けたいと思って、
卒業してからも、仕事でテキスタイル関係のこともしながら、しばらくは立体のオブジェなどを作っていました。
イラストレーションが面白そうだな。というのは、小さい頃から思っていました。
立体よりも平面の方が需要がありそうだと考えて平面の方に戻りました。
2000年に初めてMacを買って、当時はデジタルメインのことをやりかけたりもして、
お仕事をいただけるようになりましたが、鉛筆だったり絵の具だったり・・・手で描くということがまた恋しくなってきて、
アナログな作品に戻すことにしたのですが、その時に描いたタッチというのが実は今の自分のスタイルに近いものでした。
少しずつマイナーチェンジしつつ今に至る。という感じでしょうか。
子どものころから、いろいろなものが自分で作れたら楽しいな。と思っていましたね。
絵で食べていきたい、とも物心ついたときからなんとなく考えていたようです。
幼稚園に入る前くらいのことなんですが、自分で紙のお金を作って(さすがに本物のお金はだめだとわかってたんでしょうね(笑))
それをあらかじめ近所の友達の家に一軒ずつ配り、「いついつどこで自分の絵を売るので買いに来てください」
と言って回っていました。当日みんなが来てくれて、近くの広場でオモチャの紙幣で自分の絵を売る、
なんてことを何度かやってたのを憶えています。
大学を卒業したころ、絵を描いていた友達と、「なんで絵を描くのか」という話になり、
その友達は描くという行為自体をしたいから絵を描いている、人に見せたいわけじゃない。と言いました。
私は違うなと思いました。絵を描くことによって誰かとコミュニケーションを取りたいと思っていました。
私は、実は絵を描いているときよりも描き終わって展示をする時の方が楽しいんですよ。
私が描いた絵を観て誰かが何かを思ったり感じたり共感したりする。そうしてその誰かの気持ちが私に返ってくる。
絵を描くことはそういった心のキャッチボールの手段なんだろうなと思います。そういうことが幸せです。
moritaMiWブランドのタオル、森田MiWさんのスケッチ
■本のお仕事などは、「こういう絵にしてください。」と注文が来て、描くものですか。それとも自由な発想で描くのですか。
森田MiWさん
本のお話をいただいたらまず原稿を読みます。こういう絵にしてくださいという具体的な依頼があっても、
出来るだけ自分のフィルターを通した上で絵にしていきたいと思ってます。
自由に描いてくださいという依頼の場合には、読む人が物語を更に楽しく膨らませることが出来る絵はどんなモノだろ?
といったことを考えながら描くようにしてます。
昔から「宿題出され好き。」なところがあって、何もないところから始めるより、これを描けとか、
この縛りの中でどれだけはっちゃけられるか、というのが楽しかったりします。
自分で個展に出す絵なども、どこかで自分でルールのようなものを決めていたりします。
タイトルがあったり今回は"これ"というくくりを決めていたり。こういう癒しが欲しいと思っているようなお客さまがいて、
その人向けにどういう絵が描けるか、と課題を出しているようなところがあります。
対・人、というのがない絵は私の絵にはないかもしれません。
■YOSHiNOBUさんはいかがですか。
YOSHiNOBUさん
編集の方と相談して、表紙で表現したいイメージを固めてから作り起こす場合もありますし、
先に出来上がっているものを表紙に使わせてほしいという依頼もあります。
本の世界が広がっていく手助けになればいいなと思って制作しています。
ちなみに、この本(「ゴリラの森、言葉の海」山極寿一・小川洋子著 新潮社刊)は、
もともとは私のゴリラの作品の写真があったんです。
寡黙で賢そうで昭和の俳優さんみたいな、どっしり守ってくれそうなゴリラ。緊張感を持って作ったゴリラです。
写真左から
YOSHINOBUさんがカバーの立体制作・撮影を手がけた書籍
「ゴリラの森、言葉の海」 山極寿一・小川洋子 著 新潮社刊
森田MiWさんが装画を描かれた書籍
「忘れられた巨人」 カズオ・イシグロ 著 早川書房刊
「あなたの本当の人生は」 大島真寿美 著 文藝春秋刊
■使っている文房具について
YOSHiNOBUさん
愛用品 ミドリ「やることリスト」
一日の作業がわかるように簡単に単語だけでリストを作っていきます。
仕事でやることだけではなく、家事など(お風呂掃除や犬の散歩など)も一緒に書いていって、
自分の今やれることから取り掛かっていきます。
頭の中を整理するのに便利で、一日にたくさんやらないといけないことがあるときは、
やり終わった後に「成功!」って赤いペンで書き込んだりします。
小さな用事にも一つ一つ「成功!」マークをつけていってテンション上げながら乗り切ろうとしています。
一日が終わったら気軽に書いて破って捨てることのできる「やることリスト」はとても便利でリピートで何回も買っています。
YOSHiNOBUさんの「やることリスト」
左から フェルトの動物製作で使用するニードル、はさみ、マスキングテープ(ケース付き)、やることリスト、ボールペン
森田MiWさん
イラストレーションのお仕事をいただいた時はラフを描かなければならないので鉛筆を使います。
・三菱鉛筆のハイユニ(特に硬度10Bはあっという間になくなります)
・ファーバーカステルの水彩色鉛筆
・カールの鉛筆削り
・製図用のシャープペンシル(ラフを描くときにはたくさん使います)
・モレスキンのノート 無地(喫茶店などで思い付きをどんどん描いていくときのもの。)
左から モレスキンのノート、ファーバーカステルの色鉛筆、三菱鉛筆のハイユニ
ほんの小さなアイデアでも、思いついたらどんどんノートに描きます。
ここに描くときはペンだったり鉛筆だったりフリクションも使います。刺繍の図案もこのノートに。
ハンカチ「オオカミと赤ずきんの話」のモチーフの赤ずきんの原案もあります。
ノートにより具体的に描かれているようなものはそのあとすぐ作品になります。
個展のタイトルを考えたときの文字も描かれています。
「オオカミと赤ずきんの話」の原案が描かれたノート
■タオルやポーチ、森田MiWさんファンの方々は、小物はもとよりそこに添えられている物語も大好きです。
絵と物語、どちらが先に誕生するのですか。
初めになんとなく描きたい内容があって、それを絵にしていきます。
その絵ができあがったときにそれを眺めながら物語を描きます。
最初にお話はなくぼやっとしていて、絵ができて物語が完成します。
moritaMiWタオルの裏には"物語のシール"が貼られています。
左から「コモドドラゴンと花」、「アルマジロと団子虫」
■お二人は同じお部屋での作業ということですが、どのような環境で作品製作をされていますか。
仕事場の雰囲気を教えてください。
森田MiWさん
家にアトリエがあるので出勤することもないし、家事と仕事が混在しています。
一日向かい合わせで喧嘩しながらやっています。家事は私も絵の具が乾く間に洗濯物しに行ったりなど。
YOSHiNOBUさん
二人とも家事ができるので、やれるほうがやる、ということにしています。
森田MiWさん
それから、昔から私は音楽を聴いていたのですが、音楽の趣味が合わなくて、
今は流すことはせず、聴きたければヘッドフォンで聴くようにしています。
YOSHiNOBUさん
彼女が聞いている音楽の歌の歌詞がどうしても気になってしまって、
すごく気になるフレーズがあるとずっと追いかけてしまうんです。
なので作業の時は聴きません。意識がそっちにいってしまうから。
■一日の流れはどのような感じでしょうか。
森田MiWさん
私は朝は早起きです。私は朝から作業するので、起きるのは5時半くらいで作業は9時くらいから始めます。
そのあとお昼寝をしたりもして。
YOSHiNOBUさん
彼女がお昼寝をしているときに僕が作業します。アトリエは、彼女(MiWさん)は窓が背中なのでよいのですが、
僕は向かいなので窓の光がまぶしくて、夜の方が集中できます。逆に夜にならないと集中できないかもしれません。
森田MiWさん
それぞれ一人で暮らしていたとしたら、夜型と朝方なのだと思いますが、子供もいるので、
そうなってしまうと完全にすれ違いになってしまいますので昼間に仕事をするようにしています。
さいわい、出勤時間だったり拘束時間というのは私たちにはないから、時間管理という意味では
それがおそろしいところでもあるけれど、調子のいいときに効率のいいやり方で制作できるというのがいいところです。
だめなときはだめなのだから、映画行こう、散歩しよう、と自由にできるので。
わりと、日本人の中では原始人に近い生活かもしれませんね。
子供がいなかったらもっとよくわからない生活をしているかもしれませんね。
子供が家にいるので日曜日、学校行ったから月曜日、など。
■作品作りへの想い
YOSHiNOBUさん
昔と変わらず「話しかけたくなるような作品」をイメージして制作しています。
お客様にとって動物が小さなサイズになって家にやってきたような、
そんな自然なフォルムの作品になればいいなと思いますし、そこには妥協せず何度も作りなおしています。
初めの頃は、がむしゃらに作っていたら出来あがると思っていたのですが、悩んで作って適当にやっていても、
ゴールなんかないから出来ないんです。手で作業をする前に頭で決めておかないといけなくて、
耳がここに付いていて、指が何本あって...という調べる時間が必要で、そういう時間を持つようにしています。
長い時間をかけ頭の中で組み立てて、手で作るのは短い時間、というようにしています。
作りながら悩むということはなくなりました。
そして出来ればお迎えいただいた作品一つ一つがお客様のお家で名前を付けてもらったり、
いろんな話の聞き役になって「ホッとする時間」を提供できればと思っています。
■特にお気に入りのモチーフはありますか。
YOSHiNOBUさん
僕は動物の作家なのでずっと動物です。
森田MiWさん
私が描くのは、植物、人間、動物など、有機的なものなので、ロボットやビルや車などはないかもしれません。
けれど宇宙船はありましたね。宇宙人も。
モチーフ選びは特にこだわっているというほどではないのですが、興味が持てたものや、描いていて楽しいものなどを選びます。
動物はたくさん描いてるとだんだんマニアックな種類のものになっていきます。
モチーフ選びで、あるときコモドドラゴンを描こうと思ったとき、
私は好きだけど知っている方がどのくらいいるのかなと不安になったり。
でも商品になって出てみると、コモドドラゴンはけっこう売れ筋ですよー、なんて聞いたりして。
団子虫も思った以上に人気だそうです。
虫は朝散歩に行くとよくいるのですが、ぱっと隠れる子やじーっと見る子がいたり。
犬や猫と一緒でいろんな性格の子がいて、とても可愛くて面白いんですが、モチーフにすることにおいては、
好きじゃない人はけっこういるかもなぁ、なんてほんのちょっと悩みましたよ(笑)
moritaMiWポーチ「ドードーと木の実」からとびだしてきた、YOSHiNOBUさん作ドードー
■モチーフの相談をお互いにしますか。
YOSHiNOBUさん
定期的に開催している教室のモチーフについてまだ作っていない動物でお勧めとかありますか?と聞いたりするくらいです。
森田MiWさん
あまりしません。私の描くものってもしかしたらけっこう少数派だったりするのかなと思っていましたが、
いまは時代的に、皆さんの感性の幅がどんどん広がっていて、より自由に楽しんでくださってるのかなと思っています。
共有できている感じが嬉しいです。
すごく面白かったのは、moritaMiWの商品が並んでいるデパートにたまたま行って、
通りかかった方がそれらを手に取っていらっしゃるのをお見かけしたんですね。
手に取ってくださってる方々は見事に年代がばらばらだったということ。
さらに20代の方も70代の方も同じように「かわいい」と言ってくださっていたんですね。
この年代だからこうっていうのが昔はもっとあったのだと思うけれど、今はあまり関係なくなっているんだなぁと感じて、
楽しい時代だなぁなんて思います。
moritaMiWタオル「樹林ナマケモノ」からとびだしてきた「ナマケモノ」 お二人の合作