1. TOP
  2. お知らせ一覧
  3. 【インタビュー】刺繍作家 小林モー子さん

【インタビュー】刺繍作家 小林モー子さん

ツイート LINEで送る

フランス伝統のかぎ針を使うオートクチュール刺繍の技法を用いたビーズアクセサリーで人気を集める、
《モーコ コバヤシ》

このたび、小林さんの作品の秘密に迫るインタビューを行いました。
2018年2月中旬、小林さんのアトリエ「maison des perles(メゾン・デ・ペルル)」に伺い、お話をお聞きしました。

20200415_moko_1.jpg

■もともとファッションを学ばれていらっしゃったとお聞きしています。
ファッションに興味を持ったきっかけを教えてください。

小さいときから洋服がどのように作られているかに興味があり、小学生の頃から既製の洋服をくずして、
分解して、組み合わせてと遊んでいました。
ブルーデニムのオーバーオールを分解し、同じデザインで白を作ったり。
編み物も母親に教えてもらって、自分で描いた絵を入れ込んて編んだりしていました。
最近子どもができて、冬に編み物をしたかったのですが、もう忘れてしまって、
どうやって作っていたか思い出せないんです...

中学生の頃、文化服装学院の存在を知り、ファッションの勉強がしたいと考えました。

学校では洋服のパターンや縫製など様々なことを学び、その中でも、ひたすらプリーツを作るなど、
装飾や手芸が好きなことに気がつきました。
学生時代、渋谷のBunkamuraでパリのオートクチュールの世界を紹介する展示が開催されていたので見に行きました。
それまでは洋服の装飾などは見ればなんとなく作り方が分かったのですが、ここで出会ったオートクチュール刺繍だけは、
何度見てもどうやって作っているのかわからず、その方法が知りたくなり興味を持ちました。
その後いろいろとオートクチュール刺繍について調べていき、
学生時代、最後の年にパリに「ルサージュ」というアトリエがあると知りました。

日本での仕事の仕方や流れも知っておきたく、日本のアパレル会社に就職しパタンナーをしながら、
お金を貯めパリに行きました。

■服飾の世界から、刺繍作家としてジュエリー製作へと進まれました。
なぜ「ビンテージビーズ」で「刺繍」で「アクセサリー」なのでしょうか。

パリでは、蚤の市がおもしろくて毎週通っていて、そこでビンテージビーズに出会いました。
現在製作されている新しいビーズもあったのですが、比べてみると、くすんだ色味や粒の細かさなど、
圧倒的にビンテージのものに魅力を感じたのがきっかけです。

パリで画家の大月雄二郎氏と一緒に作品を作っていた時も、元々の油絵の繊細な色味を出すために
ビンテージビーズを使用していました。
その製作の過程で色の表現の仕方はもちろんですが、それ以外にも
ただただ多くのテクニックを盛り込むのではなく、シンプルにビーズだけで表現するということが残って行きました。

黒い線でアウトラインをとり、中を埋める。というのが今、私が製作しているアクセサリーですが
このスタイルは大月さんの絵がすごく好きで、一緒に製作する中で必然的にそこから切り抜いた、というような作品です。
その後、個展などいろいろな場で発表していくなかでも大月さんからはたくさんの事を学んでいきました。

■日本に戻ってきてからのことを教えてください。

パリには7年弱いました。
あちらにいるときに、日本でのイベントのお誘いもいくつかありました。
その中の1つ、仙台のイベントでは蚤の市で集めたヴィンテージパーツを使ったやアクセサリーなども持って参加しました。
その後、日本に帰ろうかなと思っていた時期に当時パリでウェディングの仕事をしていた関係で知り合った、
伊勢丹の方から、日本でイベントをしてみないかと声をかけていただきました。

いま展開しているようなブローチを少し作り始めていたので、
日本に帰国してからブローチやピンブローチを出展させてもらい、
少しずつイベントや個展をするようになりました。

帰国直後のアトリエ兼住まいは'笹塚ボウル'というボーリング場と一緒になっているユニークなマンション。
そこに約5年ほど住み、現在はクリエイター同士で集まって作ったシェアハウスにアトリエを構えています。
元々あった建物を全改装しみんなで作り上げました。
法律的なこと、お金のこと、建物の耐震のことなど、わからないことばかりでしたが、
それぞれの専門分野をいかして、仲間同士ケンカすることもなく、一致団結して一気に作りあげました。
大きな桜の木があるので春は桜がとても綺麗なんですよ。
とても思い入れのある場所です。

20200415_moko_2.jpg
アトリエ

20200415_moko_3.jpg
アトリエの入口

■この冬もアトリエの皆さんとビーズの買付けにいらしたそうですが、
ビンテージビーズは、なくなってしまう。という心配はないのですか。

パリには毎年買い付けに行きます。
私が好きなのは、1930年頃のフランスのビーズです。ものすごく小さくて綺麗。
もうほとんど残っていませがパリに住んでいた時から蚤の市には通っていたので
そこで知り合ったり仲良くなった人たちから情報をもらう事もあるので
またどこかで小さなビーズが出てくれば、と思っています。

だいたいのサイズ感や色味で、見ればその時代のものだとわかります。
当時、非常に小さなビーズを使った刺繍が流行っていたようで、
その頃に作られただけでそれ以降はこのサイズのものはないようなんです。
今年、偶然、ビンテージのオートクチュールドレスなどを扱うお店に行ったら、ビーズを売っていて。
ほんの少しだけ30年代ごろのものが出てきました。どうしても欲しかったので少し高かったのですが買ってきました。

20200415_moko_4.jpg
とても細かいビンテージビーズ 

1940~50年代ならば綺麗なものはまだあります。
現地で何軒かまわるなかで、毎年通っている倉庫などはいつも綺麗なものを持っています。
それでもだいぶ少なくなってきていて。
ただビーズを売るのではなくて、作品として使って欲しいと思ってくれている方もいて、
私が欲しがりそうなものは除けて取っておいてくれたりします。

ただ、フランス産のものはもうほとんどありません。今はチェコのものが多いんです。
あとは日本、インド、中国なども。ぱっと見のクオリティは日本製のものはとても良いと思います。
むしろきっちり揃ってきれいすぎるほど。

■いよいよビーズまで作ってしまいましたね。

日本のビーズメーカーTOHOビーズさんと一緒に「TOHO×MOKOビーズ」を作りました。
糸通しビーズの24色セット。木箱もデザインし、食べ物をイメージし色の名前を付けました。
今後は単色で販売もしていく予定です。

ビーズ作りの場に立ち会って、本当に大変だということがわかりました。
今回のコラボレーションビーズはカット入りなのですが、カットを入れるのは技術的にとても難しいようで、
TOHOさんはその部分だけは企業秘密だそうで見せてはくれませんでした。笑

この刺繍をしている方向けに販売するものではありますが、最近はビーズ人気が高まっているので、
洋服に縫い付ける、ブレスレットを作るなど、他の用途にも使ってもらえたら嬉しいです。
これからは日本でももっとビーズ人口は増えるのではと思っています。

■お教室のことを教えてください。
私が行っているレッスンは、アクセサリーを作るのではなく、オートクチュールの技術を教えるものです。
鈎(かぎ)針を使い、オートクチュールの刺繍技術を教えています。
年々やってみたいという方は増えているように感じています。

20200415_moko_5.jpg
cap:TOHO×MOKOビーズ 24色セット 手前は 糸通しビーズ'オリーブ'

■1日の流れと、メゾンデペルルの働き方

朝9時半頃に子どもを保育園に預け、アトリエに行きます。パソコン業務をしたり、打ち合わせ、撮影が入って...
そうして一日が終わっていきます。いろいろ細々とした業務で時間が経ってしまいます。
そうなると製作は夕方以降になることが多く、
結果的に時間内に終わらなくて家に持ち帰って夜中に作業したりすることも...。
以前はアトリエで深夜まで、なんてこともありましたが、今は子どものお迎えがあるので持ち帰ることになってしまいますね。
でも、夫の協力があり、先日のパリへの買い付けの際も行っていた8日間ずっとみてくれていました。

アトリエのメンバーもそれぞれが、何日までに仕上げる。という課題があって、その振り分けをする担当もいます。
最近ではだいたい月に1回、それぞれが作っているアクセサリーの加工日を決めており、
その前に刺繍作業を終わらせて全員でチェックします。みんなで「ここの足の骨格悪い」「もうちょっと尖らせて」など、
刺繍枠に書き込んでいき、手直しをします。

アトリエのメンバーは現在7人。全員仕事の形態が異なります。常時いるのは4人、週3回来る人、
ほとんどのことを家でしてくれている人、WEB関係のことをしてくれる人、など。
働き方を自由にしたいと思い、女性のために働きやすい環境をつくりたいとも思っています。
全員がメールを返したり、刺繍もできて、WEB作業もできて、ということを共有していき、
もし誰かが休んでも大丈夫な状態にしています。1年に1回順番に、1ヶ月間休みを取れる状況も準備しています。

同じモチーフを作るのに、そのクオリティを同じにするには4,5年はかかります。
たとえば、シロクマだったら、ここの骨格がこうなっている、というのがみんながわかっていないといけない。
そのあたりは時間をかけて共有していきました。それぞれが努力をしているからできているのだと思います。

■制作のとき大変なことは

ビーズって、光の加減で影が変わってトーンが暗くなったりするんです。それで何度もやり直したりすることも。
すごく時間がかかったのは、「地球と月」。
ブルーのビーズを全部入れてみてはやり直す、というのを繰り返し、何日もかかった記憶があります。
これを初めて展示をしたとき、 一番最初に売れたのがこの「地球と月」でした。
やっぱり私の作品を好きでいてくださいる方はわかってくださるんだな、嬉しくなりました。
図案を描くときは、出来上がりの強度なども考えています。
たとえば、フラミンゴは、首も足も細い。だから首を丸くした型にしたり。
足はどうする、となったら、ぶらさげるように作ろう、とか。
ここは間を抜く、ここは繋げる、などいろいろと細工をしています。

図案はすべて、私が描いています。自分で考えて、どう?って皆に意見を聞いたりします。
一人でやっていたときは裏面の加工も自分なりに考えていましたが、皆で考えるようになってクオリティはすごく上がりました。
各々に得意分野がありさまざまな実験をくりかえすなかで、特に裏面の加工の技術は上がっていると思います。
アクセサリーを作りはじめた当初から、動きのあるようなものの方が面白いなと思っており、
おばけ、シャンパン、稲妻、など動きの瞬間をとらえたものを作ってきました。

20200415_moko_6.jpg
制作風景

■モチーフ選びのアイディアはどのようなところから生まれるのですか。とくにお気に入りはありますか。

普段の生活。でしょうか。家にいっぱいものがあふれているから...
テレビや雑誌などもあまり見ないので。アトリエにたくさんある本も、
友達の展示会に行って買ったものばかりで、自分で探しに行くことはないんです。

私の作るものはアクセサリーだけど、モチーフありきなので、ありとあらゆるものが作品となります。
「なんで心臓なの?」とか、話題の手がかり(piece de canversation)となるものがブランドコンセプトです。

お店で並んだときのことも気にして作るようになりました。大きな動物が好きなのですが、
どうしてもグレーや茶色が多くて見栄えがしないので、カラフルな鳥などを入れたりしています。

アクセサリーの種類は今、だいたい600種類くらい。
特に思い入れがあったり、好きなもの、撮影をするときになぜか選んでしまうというものがあります。
UFO、ミルク、傘、稲妻、心臓、脳...など。単品で成り立つもの、一個で美しいもの、が気に入っています。

20200415_moko_7.jpg
ブランドのアイコンにもなっているクロッシェ(かぎ針)でひと針ひと針

■アイディアスケッチの際に使用する文房具

鉛筆が多いです。特にこだわりはありません。
下絵を描くときに使っているのは、三菱鉛筆「ユニボールシグノ」。ブルーブラック。0.38の細いものから太いものまで。
紙は普通のコピー用紙だったり、100円均一のブロックメモだったり。

普段から使うものではないのですが、モンブランのボールペンも持っています。太軸でインクは黒。
15年くらい前にパリで買いました。
大月さんがサインをするときなどにモンブランを使っていました。
「そろそろいいものを持った方がいいよ」と言われ、かっこいいなあと思っていたので買いました。
今は打ち合わせに行くときなどに思い出したら持っていく感じです。

20200415_moko_8.jpg
ブロックメモとシグノ

■今後取りあげてみたい題材はありますか。

ずっとやってみたいな。と思うモチーフで「妖怪」というのがあります。
みんなが想像する妖怪って、ただ怖いだけのものだったりします。調べていたら、
絵が無くて妖怪の特徴だけを書いているものがあり、その特徴から絵にしていったらすごく気持ち悪くなりました。
舌がながくて、口が裂けていて、赤い舌が出ていて...それでやめようと思いました。が、いつか形にできたらと思っています。

20200415_moko_9.jpg
いつの日か作品になるかも・・・出番を待つ妖怪たち。